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植物の細胞分裂を支配する新しい調節遺伝子を発見-植物バイオマスの増強に期待- 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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植物の細胞分裂を支配する新しい調節遺伝子を発見

植物バイオマスの増強に期待

名古屋大学大学院生命農学研究科(研究科長・川北 一人)の伊藤

正樹 (いとう まさき) 准教授らの研究グループは、 植物細胞の分裂

を支配する新しい調節遺伝子 「MYB3R」 を発見し、 この因子が作用す

る一連の分子メカニズムを解明しました。

植物が成長するためには、細胞分裂により細胞の数を増やすこと

が不可欠です。そして、細胞が分裂を起こすためには、分裂の実行

に関わる種々の遺伝子の発現を高める必要があります。今回発見し

た 「MYB3R」 は、 このような細胞分裂に関連する多くの遺伝子の発現

を共通に抑制し、その結果、細胞分裂を停止させる方向に作用しま

す。伊藤准教授らは、 「MYB3R」の働きを人為的に低下させた植物を

作成し、詳細な観察を行いました。その結果、分裂に関連する遺伝

子群の発現が大幅に増加し、細胞分裂の活性化と、葉や根などの器

官成長の促進が起きていることを見出しました。

この研究成果は、多細胞体形成の仕組みに関する基礎的な知見と

して重要であるだけではなく、植物バイオマスの増強をもたらす新

技術につながる成果として、期待されております。

本研究の内容は、 平成 27 年 6 月 11 日 20 時 (日本時間) に欧州分

子生物学機構誌「The EMBO Journal」のオンライン版に掲載されま

した。

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Transcriptional repression by MYB3R proteins regulates plant organ growth

MYB3Rタンパク質による転写抑制は植物の器官成長を制御する

The EMBO Journal Online 611 20時公開

研究内容の解説

【背景】

器官形成における細胞分裂

私たちが目にする多くの生き物は、体が多数の細胞から構成されている生物、多細胞生 物です。成人の体は実に60兆個の細胞からできていると言われています。多細胞生物 の体は、元々は1つの細胞、すなわち受精卵に由来します。一方、細胞は、細胞の分裂 でしか作ることができないので、生物が成長して体や器官を大きくしていくためには、 細胞分裂により細胞の数を増やすことが極めて重要です。しかし、細胞分裂が無制限に 持続すると、無秩序に成長が進んでしまうことにもなりかねません。例えば、カーネー ションならカーネーションの花の大きさはおおよそ決まっていて、ヒマワリのように大 きくなることはありません。このように、細胞分裂は器官(例えば葉や花)の成長に不 可欠ですが、適切な時期に

分裂を停止して、器官が適 度は大きさになるように調 節する必要があります(右 図)。このように細胞分裂に ブレーキをかける仕組みは、 器官の大きさを決定する上 で重要であり、全ての多細 胞生物がこのブレーキの仕 組みを持っていると考えら れます。しかし、このブレ ーキの実態やその作用のメ

カニズムについて多くの部分が未解明のままです。本研究では、植物の器官が形成され る際に、細胞分裂のブレーキとして働く新たな遺伝子を見つけ、その作用の仕組みを明 らかにしました。

(3)

MYB3Rについて

細胞が分裂を起こすためには、分裂の実行に関わる様々な遺伝子を発現させる必要があ ります。私たちはこれまで、モデル植物シロイヌナズナを用いた研究から、このような 分裂の実行に関わる100個以上の遺伝子(以下, 分裂関連遺伝子)の発現を共通に制御 する調節タンパク質としてMYB3R(ミブスリーアール)を見つけていました。MYB3R は特定のDNA塩基配列に結合して他の遺伝子の転写を調節する働きを持つタンパク質、 いわゆる転写因子です。MYB3RAACGGという配列(これをMSAエレメントと名 付けている)に結合しますが、このMSAエレメントが多くの分裂関連遺伝子の上流領 域に存在しているため、これらの遺伝子を共通に制御することができます(下図)。私 たちは以前に、シロイヌナズナには MYB3R5 個存在し、このうち MYB3R1 と MYB3R4という2つの因子が、

標 的 遺 伝 子 の 転 写 を 活 性 化 す る 働 き を 持 つ こ と を 示 し ま し た。これらの MYB3R の働き を人為的に低下させると、本来 分 裂 す る 細 胞 が 分 裂 で き な か ったり、分裂に失敗したりする ことを報告しています。今回の 成果では、これらとは逆に転写 を 抑 制 す る 働 き をも つ MYB3R を 世 界 に 先 駆 け て 初 めて発見しました。

【研究の内容】

細胞分裂のブレーキとして働くMYB3Rの発見

シロイヌナズナのMYB3Rのうち、MYB3R1MYB3R3およびMYB3R53個のタ ンパク質はMSAエレメントに結合する転写抑制因子であることが今回、初めてわかり ました(MYB3R1 は転写活性化と抑制の両方に働く転写因子であることがわかりまし た)。これら3個の遺伝子の働きが低下した植物を作成し、詳細な観察を行いました。 その結果、多くの分裂関連遺伝子が通常よりも強く(多く)発現していること、また、 成長を終えて最終的なサイズに達した器官(ほとんどの細胞が分裂を停止した器官)に おいても分裂関連遺伝子の発現が高いまま維持されていることが分かりました。また、 細胞が特定の機能を持つように分化すると、通常はそれ以上の分裂は起きず、分裂関連

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遺伝子の発現も消失することが知られています。しかし、抑制型 MYB3R の働きが低 下すると、分化した細 胞でも分裂

関連遺伝子が発現を続 けました。 このような異常な遺伝 子発現の結 果、細胞分裂が通常よりも亢進し、 葉や根の成長が野生型 植物よりも 促進すること、その結 果、これら の器官のサイズが大型 化すること がわかりました(右図)。

【今回のポイント】

今回の結果は以下の重要な結論を導きました。

・ 分裂関連遺伝子の発現を抑制する転写因子(抑制型 MYB3R)の存在が初めて示さ れた。

・ 成長を終えた(終えつつある)器官では、分裂関連遺伝の発現を積極的に抑制する メカニズムが存在する。MYB3Rはこのメカニズムの中心的な因子である。

MYB3R は、器官形成の適切な時期に細胞分裂を停止させて、適度なサイズの器官 を形成するために重要な役割を持っている。

MYB3R は動物にも知られているが、これらは専ら分裂関連遺伝子に作用する転写 活性化因子であると考えられている。これに対し、植物には活性化と抑制に関わる MYB3Rを両方持っていることがわかった。

【研究の意義】

今回の発見で、器官成長を負に制御する MYB3R を見いだしましたが、器官の成長、 そして最終的な器官サイズを決定するメカニズムの全てが分かったわけではありませ ん。もし、この仕組みが完全に理解されれば、植物の葉や花の大きさを自由自在にコン トロールすることができるはずです。現時点で私たちが理解している範囲では、まだそ こまでは不可能ですが、今回の発見は完全な理解へ向けた大きなステップであると考え られます。また、MYB3Rを欠失した植物では、葉や根などの器官が早く成長し、サイ ズが大きくなることがわかりました。抑制型 MYB3R をコードする遺伝子は、イネや サトウキビをはじめとして、調べられている全ての植物に存在していることから、今回 の知見は農作物やバイオマス植物などの有用な植物における応用が期待されます。この

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ような植物の抑制型MYB3Rを操作し、細胞分裂をコントロールすることができれば、 より効率的で安定な食料生産、エネルギー生産が可能になり、持続可能な社会の実現に 資する技術に繋がる可能性があります。

参照

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